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2024-05-13 18:16

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×リボーンオブイノセンス

2008-02-26 00:43

リボーンでテイルズオブイノセンスをパロディしたSSです。
もちろん、ヒバツナです。

まだ直していない部分も多いので、とりあえず試験的に、日記にUPしましたー。


大部分がイノセンスの話をそのまま使用していますが、都合のいいように改変したところも多くあります。
セリフもいくつか、イノセンスゲーム本編から引用もしています。

イノセンスが大好きで、世界観を壊して欲しくないという方は、お読みにならないほうが良いと思います。
ぶっちゃけなんでも許せる方だけ読んでください。
後、微妙に長いです。
携帯からの方はもしかしたら表示されないかも。そしたらごめんなさい。


では続きからどうぞー!


なんでこんなことに―…。

綱吉はほろり、と涙を零した。そのままほろりほろりと零れ落ちる涙に気付いた雲雀が、うんざりと顔を歪めた。先程から綱吉が泣き止まないのでいい加減欝陶しいのだろう。きろりと鋭い視線が綱吉に向いたが、すぐに目を逸らされた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔はどうやら彼の観賞に耐え得るものではなかったらしい。
「…いい加減泣き止みなよ」
「は、はぃ…うっ」
頷いてみるものの涙は止まらない。もはや綱吉の意志では制御しきれなくなった涙腺はひたすら塩水を分泌するばかりだ。
狭く、窓のない部屋。鉄の錆びた臭いばかりが鼻をくすぐる。
雲雀と自分の他に、二人ほど。彼らもきっと転生者なのだろう。転生者であるがゆえに、何故こんな目に合わなければならないのだろう。何も悪いことなんてしていないのに。
ただ、変わった力があり、記憶がある。それだけだ。

変わった力…天術と呼ばれるそれは、本来なら、教会の位の高い聖職者のみが使えるはずのもので、聖職者が神の力を借りて、祈りを捧げる人間に施しを与えるための力だ。
傷を癒し、土地を富ませ、街を広げる。天術はかつては人々に様々な恩恵を授けた。

その天術をなぜか、聖職者でもない綱吉が使えるようになった。
守りたい、傷ついて欲しくない、そう強く思った瞬間、ぶわりとその力が湧き上がったのだ。拳と額にオレンジ色の炎が灯り、超人的な動きができた。ダメツナと散々蔑まれた自分が嘘みたいに軽やかな動きで目の前に立ちはだかる敵を次々と倒すことができたのだ。
信じられないと同時に、自分ではないような力で魔物を殴った手がそのときは嬉しく、頼もしかったが、実は今思い出すと少し恐ろしい。本当に自分は人間ではないみたいだ。

雲雀恭弥もまた、天術が使える人間だ。
彼の場合はどこに隠し持っているかわからない仕込みトンファーにバイオレットの炎を灯らせて、人間離れした力と速度で敵を叩き伏せるー…彼いわく「咬み殺す」のだ。
黒い瞳、黒い髪。
初めて雲雀に会った時に切れ長の目を見た瞬間思わずぎくりと心臓が跳ねたことを今も鮮明に覚えている。あの出会いは、本当に衝撃だった。空腹だった彼に睨まれた綱吉はまさしく蛇に睨まれた蛙だった。まるで都会の真ん中で肉食獣にばったり遭遇してしまったかのような衝撃を受けた、と今思い出してもひやりと汗が落ちる。
おそるおそると今はただむっつりと黙り込んで隣に座っている雲雀に視線を向ける。
雲雀と出会ってからは何だかんだと慌しかったからこんな風に彼の隣でゆっくりと座ることなんてほとんどなかった。視線に気づいているだろうに、雲雀はこちらを向かない。それをいいことに、綱吉はしげしげと雲雀を観察した。
ごついほどではない適度についたしなやかな筋肉、今は座っていて目立たないが立てば綱吉に比べれば随分と背は高い。彼は、天術など使わなくとも十分すぎるほど強いと綱吉は知っている。
綱吉は、もちろんそうではない。天術が無ければ戦うことなどできやしないし、それどころか人並みの運動神経すら持ち合わせてもいないのだ。勇気も度胸もない綱吉は敵を前にして震えていることが精々だ。その場から何とか逃げられたのなら御の字。
この天術とて、雲雀に出会わなければ、使うことなど無かっただろう。あれが全ての始まりだったのだろう。
そしてやはり、雲雀と出会ったのはやはり特別な縁があるとしか言いようが無かった。

こぼれた涙が床にぱたりと零れて染みになった。いつか水溜まりになって、いつか海が作れるかもしれない。
―…海を作ったのは確か女神の涙だったけ。違った、確か女神の涙が琥珀という宝石になったんだった。
綱吉は学校の教師が話していた内容をふと思い出す。テストの時にはどうしても思い出せなかった内容を今頃思い出すなんて、本当にダメツナだ。ああもし、涙で海ができたら嫌なものも全て、流してしまえるだろうに。
けれども自分はそんな大層な神様ではないから、当然不可能だ。
かつては、そうだったかもしれないが。


沢田綱吉は、何の力もないしがない一中学生だ。だった、と言った方が正しいだろうか。
きょとりとした鼈甲色の瞳は大きいばかりで鋭さがなく、小作りな鼻や口、子供っぽい頬は母親に似てしまい、男らしさにはどうにも欠ける容貌だ。男らしい父親に似たのは重力に反発して四方八方に跳ねる髪の毛だけで、身長も体重も頼りない。あだ名はダメツナ。運動も勉強もからきし苦手な綱吉にはあまりにぴったりすぎるあだ名だ。
情けない、けれども他に特筆すべきところのない人間だ、と綱吉は思う。
ただ強いて言うのであれば、幼い頃より少しばかり変わった夢を繰り返し見る。そしてつい最近のことも考慮に入れるのであれば、少しばかり変わった力を使えるようになった人間なだけだ。

綱吉は、王都レグヌムという街に住んでいた。
長きに続く戦乱の中、優勢を保ち平和であり続ける街。戦争を行っているという事実を感じられない、新聞の中でしか戦争を知りえない、そんな街だ。戦争があっても徴兵されずにいつも通りの生活を安穏と送れる商家の一人息子。そういう身分だった。
そんな戦争とは程遠い街で「異能者捕縛適応法」という法が可決された。新聞を読んだ父親が、朝食を食べる綱吉と母ににそう説明してくれた。ついに国も、対策に乗り出したか。
異能者、それは超人的な力を操る人間のことをいう。化け物だ、悪魔だと叫ばれ、異能者と呼ばれる彼らは国に捕らえられるようになった。
そんな人達がいるのね、関わり合いになったら駄目よツッくん。母に心配にそう言われて適当に生返事を返したのを何故かよく覚えている。
その時はそんな法律など自分には関係があるわけがないだろうと思っていたし、何の興味もなかった。
いつもの朝だった。

雲雀と綱吉が出会ったのはそんな折だ。
人数合わせのためにといきなり誘われて、無理矢理参加させられたサッカーの試合でいつも通りダメツナっぷりを発揮し、当然のように綱吉のチームは負け、お前のせいだお詫びとしてホットドッグ買ってこいよ!とお決まりのようにクラスメイトにパシりにされていた時のことだ。
まだ温かいホットドッグを抱えて己の情けなさに俯いて歩いていたら思い切り人とぶつかってしまった。幸い吹っ飛ばされて尻餅をついたのは綱吉だけだったが、明らかに綱吉の前方不注意である。無言で立ち尽くす相手にどこか怪我でもしたのかと慌てて謝罪をするも、返事は無い。まさか痛みで声も出せないのでは、と焦った綱吉は慌てて立ち上がった。綱吉よりも背の高い彼を覗き込むようにすると、図らずとも見上げる形になる。少し眺めの前髪から覗く黒い瞳が、じろりと綱吉を見る。ひく、と喉が引きつった。いじめっ子のそれではないが、小心者の綱吉には胆の冷える眼差しで、脅えるには十分すぎるくらいの迫力があった。
思わずたじろぐ綱吉の周りを、彼の肩からひらりと飛び降りたつぶらな瞳の黄色い鳥が旋回する。綱吉の拳ほどの大きさもない小さな鳥だ。目は小さいが、口がでかい。不恰好だか愛嬌はある。そのでかい嘴がばかりと開き、綱吉はよもや噛まれるのではないかと目をむいた。
「ヒバリハラヘッター!ドウオトシマエツケルオマエー」
よく鳥がそんな言葉をしっているものだ。落とし前?と綱吉がオウム返しをすると、鳥がナンカヨコセヨ、と悪態をついた。こんな風会話ができる鳥なんて聞いたことない。しかも柄が悪い。
ぶつかった相手が、う、と低く呻いたのに気づき、鳥に気を取られていた綱吉は慌ててぶつかった相手を見上げた。
すると、ぐぅ、と腹の鳴る音。自分ではないので当然目の前の相手からだ。ちろり、と上目遣いに伺うと、黒い瞳がぼんやりと綱吉を捕らえた。
「…お腹すいた」
「…はぁ」
お腹がすいたと一言落としてからは喋る気力もないのか、何も言わなくなってしまったので仕方なく綱吉は、ホットドッグを一人と一匹にあげることになった。僅か二口ばかりで消えていくホットドッグに、後でまた買いなおさなきゃな、とため息をついた。
「君、なかなか都合がいい人間だね」
ホットドッグを胃に詰め込んで一息ついた青年が口角を上げてそう言った。
普通、ここは礼を言う場面じゃないだろうか。そう、目が不満げに語っていたのだろう、礼を言わないわけじゃないよ、と憮然として言った後、彼は雲雀恭弥と名乗った。
結局お礼を言わない彼に、またため息が漏れそうになったが無理矢理肺に戻して綱吉も名乗り返した。礼を期待してホットドッグをあげたわけではないので、別にいいのだけれどやっぱり少しだけ釈然としない。
しげしげと見ると、彼は変わった格好をしていた。服自体は珍しいものではない。綱吉は通っている中学校の制服のズボンとベストを着ているが、彼は黒い学ランを着ていた。彼も中学生なのだろう。だが、カッターシャツの上から学ランを腕を通さずに羽織っていた。変わった着方だな、と綱吉ははしりとまばたきをした。
腹が満たされた雲雀は切れ長の目が機嫌良さそうに細める。よくよく顔を見れば、先程は睨んでいたのではなく地顔だったのだとわかる。つまり、もともと目つきが悪いのだ。これは、いじめっ子や不良いうわけではないが、あまりお知り合いになりたくないタイプだ。直感でそう判断した綱吉は、彼にはあまり深入りしないでおこうと、決めた。

しかしながら、じゃあこれで、と綱吉が踵を返そうとした、次の瞬間。いたぞ!と鋭い声
があがった。ついでバタバタとした焦った複数の足音。

何だ、と振り向く前に雲雀に首根っこを引っつかまれていた。ぎゃあ、と叫ぶ暇もない。
逃げるよ、と一言耳元に落とされたが、走り出されたらそれどころではないし、何より追われているのはどう考えても自分ではない。そう訴えたくとも首が絞まっていて声が出せる状況でもなかった。発声よりまず、呼吸が大事である。

追いかけてきた白ずくめの男たちをすっかり撒いたところで、ようやく首を引っつかんでいた腕をようやく離してもらえたが、散々振り回された頭は平衡を保つことすら難しい。思わず座り込むと胃から今朝食べた母お手製の朝食が出そうになって、えずく。じわり、と涙と生唾が出る。なんでこんな目に。
けへけへと空咳をして、吐き気を紛らわしながら必死に綱吉は考えた。
先程の白ずくめの人たち。確か、アルカ教団とかいう新興宗教の信者の人たちだ。特徴的な服装だったから、物覚えの悪い綱吉でも覚えていた。最近力の無くなって来た教会勢力に変わって、やたらと信者を増やしている、とか。
そのアルカ教団に追われているのだろうか、彼は。
涙に潤んだ目で見上げれば、何、と黒い瞳が無言で問い返してきた。
「…何か、悪いことでも、したんですか」
「身に覚えがない。ヤツらが勝手にきたんだよ。しかも、僕の町の風紀を乱したから」
咬み殺してやったんだ。そしたら追いかけてきた、と雲雀は壮絶に笑った。思わずぞ、と背筋が寒くなる。とんでもない人とぶつかってしまったものだ。
「何で追われてるんですか?」
「さあ?ただ、転生者がどうの、と言っていたね」
「……転生者?」
良くは知らないよ、と雲雀は言った。
「転生者は異能者とも呼ばれているみたいだよ。ヤツらは、異能者捕縛適応法とかいう下らない法律を理由に僕の町にやってきたらしくてね」
腹が立つ、と舌打ちをして雲雀は吐き捨てた。忌々しげに細められた目は威圧感がある。
「…ただ、あいつら、僕が繰り返し見る夢も、力のことも知っていた。僕しか知らないはずのことなのに」
繰り返し見る夢、だって?
思い当たるところがあって、綱吉はうつろだった瞳をはっきりとさせた。
「繰り返し見る夢…?」
「僕には昔から繰り返し見る夢があってね。ヤツらは、夢で見た内容は僕の前世だと、そう言っていた」
繰り返し見る夢、まさか、自分の夢には関係がある訳が無い。そう、心の中で否定する。
あれは違う、男らしさに憧れる自分の願望が表れた夢なだけだ。
でも、あそこまでリアルな夢を何度も繰り返し、見るものだろうか。
鼓動が五月蝿くなって、顔色も青ざめていたのだろう。訝しげな表情をした雲雀に覗き込まれて、ギクリと体を反応させたのも悪かった。
「何か思い当たるところでもあるの。…洗いざらい吐きな、沢田綱吉」
にんまりと目を意地悪気に細め、いつの間に一体どこから出したのか、冷たいトンファーを首にちゃきりとあてられて、気弱な綱吉が口を割らない訳がなく。
結局、綱吉は夢の話を雲雀に教え、雲雀も夢の内容を綱吉に教えることになった。

夢の中では綱吉はジョットという名の男だった。綱吉の夢は彼を中心に進む。ジョットは、天上界という場所に住んでいた。

天上、つまり神の住む世界。
かつては天上も地上も一つの世界だった。そこに神達は暮らしていた。
神は「天術」と呼ばれる奇跡の力を行使することができた。だが、神の中には力を悪用し、世界を乱す者もいた。そのため世界を天上と地上に分かち、罪を犯した神から天術の力を奪い、地上へ閉じ込めることにした。地上は牢獄だ。
地上へと落とされ、力を奪われた神は人間となった。罪を償うために人間は神に祈った。天上は免罪の意として天術の力を人間達へと還し、その祈りのおかげで、天上は存在していた。

ジョットもまた、神だった。天上界にも民がおり、国があり、そして戦争があった。
ジョットはセンサスという国の将軍であった。勇猛果敢、卓越した身体能力とカリスマ性に富み、男の中の男という言葉は彼のためにあるようだと綱吉は夢から覚めるたびにしみじみと思った。 すい、と鋭さを持った深い瞳は非常に魅力的で、彫りの深い端整な顔は男らしく、男の綱吉から見ても惚れ惚れとするくらいだ。
当然、ジョットは女にモテた。
彼にはイナンナという、とてもとても美しい恋人がいた。イナンナ、豊穣の女神。
華奢な肩に艶のある赤みがかった長い髪は風にゆれ、まるで女神が身にまとうような白い布を巻きつけただけで、豊満な肉体を惜しげもなく晒していても、厭らしさを感じさせない。何よりもその大きな意志の強そうな目が印象的で、少し勝気で、何より美しかった。夢の中のことだというのに、綱吉はその姿を思い出しては、何度となく頬を染めたものだ。

そして、夢の中で綱吉がジョットであるように、なんと雲雀はこのイナンナという女性だという。

驚いたことに、綱吉も見る夢も、雲雀が見る夢も、ジョットとイナンナという視点こそ違えど、内容は寸分の違いもなかった。アルカ教団の信者が言うには、これは自分達の前世の夢だ。ただの夢だと思っていたのに、こんなにも雲雀と夢の内容が一致していてはその話に信憑性が帯びてくる。

では自分は前世ではあんな男前だったと?
今の自分とはあんなにも違うのに?
でもそれは、自分は彼のようになれるという可能性があるということだろうか。
期待で、頬が少し赤くなるのを感じた。
だってジョットのようになれたら、どんなにかいいだろう!

「前世がどうであろうと僕にはどうだっていいんだけど」
けれども雲雀の冷静な声に、すぐに我に返ることになった。ちら、と視線を向けるともともと目つきのよろしくない切れ長の瞳を更に細めて、剣呑な表情をしている。
ああ、前世はあんなにも美しい華奢な女性だったのに。何がどうしてこうなってしまったのだろう。大体雲雀は、男ではないか。せっかくだから同じように女性に生まれ変わればよかったのに。
むぅ、となんとなくやるせないものを感じて雲雀をじと、と見るとぎらりと鋭い目を返されて、慌てて目を逸らした。こういうときジョットだったら一体どうしていただろう。びくびくと脅える心で考えるが、思いつかない。少なくともこんな風にイナンナ相手に脅えることも無かっただろう。
そこではっと思い当たる。こんな怖い人(しかも男)と自分は前世では、恋人同士だったのだ。考えたくない話だ、と綱吉は首を横にふる。いや、考えてはいけないのだ。彼は今、「前世はどうだっていい」と言ったではないか。

「…それにしても、君があのジョットとはね」
ふ、と吐息だけで笑われて、思わず綱吉はびくりと縮こまる。
「随分可愛らしくなったものだ」
かぁ、と羞恥で頬が熱くなってしまう。これはもしかしなくても、馬鹿にされている。
そりゃ、ジョットのようにハンサムでなければ男気もないけれど。曲がりなりにも綱吉は年頃の男で、可愛いという対象にされるのは嬉しいことではない。それでも綱吉は怒りをあらわにすることは出来ず、ただ、眉をよせるだけ。その綱吉の姿に、雲雀はくつりと喉を鳴らした。
「でも僕は、今の君の方がいいと思うよ。ジョットは、気に食わないな」
風紀が乱れてる、咬み殺したくなるよ、と雲雀は目を眇めた。
きょとんと綱吉が見ていると、何を見ているのと凄まれた。なんでもないです、と慌てて気を付けの姿勢をとれば、それに満足したのか、雲雀は一つ頷いて見せる。
少しだけ柔らかく細められた目はイナンナに似ていなくもない、と思ってしまって綱吉は少しだけ頬を染めた。女性に例えられて、彼も嬉しいわけがないだろう。前世であるイナンナに似ていると言われれば、雲雀はきっと複雑な気持ちになるに違いない。
綱吉なら、もしジョットに似ていると言われれば小躍りして喜ぶだろう。もちろん、ジョットは小躍りなんか絶対にしないだろうけれど。

「それで、君はどうするの」
きょとりと、綱吉は瞬いた。人より無駄に大きな瞳が見開かれるとどうやら綱吉の顔は間抜けな顔に見えるらしいが、無意識にしてしまう表情なのだから仕方ない。くしゃくしゃとした飴色の毛に包まれた鈍い脳みそは大して働いてはくれない。対する雲雀はどうやら随分と回転の早い頭を持っているようで、綱吉にわかりやすいように説明をしてくれた。
「異能者適応捕縛法っていうのが、施行されているんだろ。アルカ教団も僕と君が一緒にいるのを見ている。君が捕まるのも時間の問題なんじゃない」
あ、と思わず声を漏らし、綱吉はその手で口を覆った。
何せアルカ教団は雲雀が隠していた繰り返し見る夢と、力のことを知っていたのだ。力を使えるかどうかわからない綱吉でも、繰り返し見る夢をアルカ教団が知っている可能性は当然あるし、雲雀と一緒に逃げたことでアルカ教団の目が少なからず綱吉にも向いたことだろう。もしかしたらもう実家には手が回っているかもしれない。国が行っている異能者狩りだって、いつ綱吉に及ぶかわからない。逃げるしか、ないのだろうか。身を潜める場所なんてどこかにあっただろうか。
どうしようどうしよう、と混乱するばかりの綱吉に雲雀が静かに声をかける。
「…教団のヤツらが僕のところに来たときに、創生力の居場所を知っているだろう、と言ってきたんだ」
「そうせいりょく?」
聞いたことが無い。綱吉が首を傾げると、僕も知らない。と雲雀も頷いた。
「創生力のそばにいた僕なら知っているはずだそうだよ」
前世の記憶があるとはいっても、雲雀も綱吉も思い出せているのは夢で見た部分だけだ。量にしてみれば大したことはなく、細部は不明確。しかし創生力という言葉は、ちりりと綱吉の頭に引っかかった。聞いたことがある気がする。イナンナが創生力のそばにいたというのなら、それはジョットも同じなのかもしれない。
「アルカ教団はその創生力が欲しいんだろうね」
興味深いと思わない?と雲雀はにやりと笑った。
「そんなにまでしてヤツらが欲しがる力。僕が手に入れるのも悪くない」
にぃ、と雲雀の口元が更に歪んだ。なんて悪い笑顔。綱吉の顔からさ、と血の気が引いた。今まで見てきたレグヌムにいた不良より学校にいるいじめっ子より格段に意地の悪い笑顔だ。
思わず雲雀の隣に落ち着けていた尻をずらして、少しでも距離をとろうとするけれど、当然直ぐに気づかれ、そのいい笑顔は綱吉にまっすぐに向けられた。
「どうせレグヌムに戻ったって鈍臭そうな君はすぐに捕まるよ」
「うっ…」
言われなくてもその通りなので何も言い返せずに綱吉は言葉に詰まる。
「今の君は咬み殺し甲斐の無さそうだけど幸いにも前世はジョットだ。いつか、創生力について何か思い出すかもしれない」
じり、と雲雀の顔が綱吉の目の前に迫る。ひぃ、と綱吉はか細く悲鳴をあげた。その悲鳴が雲雀の中の何かのスイッチを刺激してしまったらしい。楽しそうに喉を鳴らし、ますますいい笑顔になった雲雀に、もはや綱吉は涙目である。
「僕についてきなよ」
終いには再びトンファーを喉元に当てられて、涙目の綱吉が頷かない訳には行かなかった。

次は、ナーオスの街に行こう。
ナーオスは信仰に篤い街で、街の象徴に大きな教会がある、レグヌム同様に戦争の脅威に晒されていない平和な街だ。ナーオスには異能者がいる、と雲雀は噂で聞いたのだそうだ。新たに異能者に会えば記憶が戻ってくるかもしれない。創生力に一歩近づくだろう。
雲雀がそう言うので、綱吉はただもうついていくしかなかった。
すでにアルカ教団の手が回っているかもしれないから自宅に一度戻ることも出来ず、綱吉は着の身着のまま故郷のレグヌムを出ることになった。
当然、街の外には魔物が出る。今まで戦ったことなど当然ない綱吉は魔物に遭遇し、逃げ回り恐怖のうちに、終いには腰を抜かしてしまった。そんな綱吉に目もくれず、雲雀は容赦なく魔物をぼこぼこにしていくが、綱吉は座り込んだまま結局何も出来なかった。
「君には戦闘では何も期待してないから別にいいよ」
そう言って雲雀は魔物の爪で僅かに傷ついた腕をぺろりと舐めた。怪我を、してしまったのか。綱吉の瞳が揺らいだのに気づいた雲雀が、眉を寄せた。
「かすり傷だよ。それに、君のせいでもない」
「でも…」
雲雀の腕は、カッターシャツが避け、細い傷跡が残っていた。生々しい。綱吉の腕までもしくりと痛む。
もし、ジョットだったら腰なんか抜けなかった。
もし、ジョットだったら彼に守られずにすんだ。
もし、ジョットだったら自分が率先して魔物を倒して、こんな風に彼に傷を負わせずにすんだろうに。
余程悲壮な目をしていたのだろうか。じゃあ一応武器でも持っていたら、とそこらに落ちていた木の棒を渡された。また丁度良い具合の木の棒が落ちていたものだ。しかしやるせない。
いくら期待していないといっても、せめてもうちょっと武器らしいものを渡してはくれないものか。そもそもこんなもので魔物が倒せるのか。
そんな不満がありありと出ていたのだろう。どうせ戦わないんだからそれで十分だろ、と言い捨てられた。ごもっともなので綱吉は沈黙を守って木の棒を握り締めるしかなかった。
しかしながら、魔物が群れをなして突然襲ってきたときに、その木の棒はすぐに不要となった。魔物の群れは流石に雲雀一人で捌ききれる数ではなく、綱吉にも魔物が襲ってくることになる。魔物越しに見ると、雲雀は一度に4頭もの魔物を相手にしていた。
街を出てから相当な数の戦闘を雲雀は一人でこなしている。治癒魔法は雲雀しか使うことができないというのに、かすり傷だからと雲雀は滅多に使わないのだ。動きも鈍くなろうというもの。いつの間にか、雲雀の背後に魔物が回っていた。
口元から覗く牙は、先程雲雀を傷つけた細い爪とは比べるまでもなく太く、鋭い。あんなもので身を裂かれたら軽傷ですみわけがない。
ぐわり、と魔物が牙を剥く。
―…危ない!ああ、畜生!もし、ジョットだったら雲雀を守れただろうに!
もし、ジョットだったら、ジョットだったら。

みしり、と手の中で木の枝が砕けた。

その瞬間、腹からぐわりと何かが湧き立った。ついでがつんと頭に衝撃。ぐらぐらと沸騰するかのように力が身体に行き渡る。見れば拳にはオレンジ色の炎が煌々と灯っていた。
これは、一体。
思う前に拳が雲雀に迫っていた魔物を殴り飛ばしていた。ばきんと高い音がして、固く太い牙が折れる。甲高い魔物の咆哮、叫ぶ終える前に再び殴り飛ばせば、魔物は地に叩きつけられて動かなくなった。
体が、軽い。嘘みたいに力が湧いてくる。まるでジョットみたいだ!
気づけば、周りにいた魔物達は皆倒れ伏していた。

息が、荒い。心臓も早い、拳がじんじんと痺れるようだ。雲雀はどうだろうかと見やれば、かすり傷程度しか負っていない。良かった、と安堵の息が漏れた。
ふ、と力を抜けば綱吉の額と拳の炎はほわりと空気中に溶けていく。これがジョットの力。消えていく炎を目で追って、半ば呆然としながら綱吉はぽつりと呟いた。
「俺、戦えた…」
「そう、良かったね」
無感動な雲雀の声すらも今は優しく響く。それほどまでに歓喜に酔っていた。
まるでジョットのように、軍神ジョットのように戦えた。
嬉しさに涙さえ滲みそうになる。今は炎を灯さない手のひらを目の前にかざすと、その手をふいに雲雀にとられた。ふわりと温かいと思うと、傷ついた腕に治癒魔法がかけられていた。
「君、なかなかやるじゃない」
雲雀の機嫌の良さそうな声に、ありがとうございます、と綱吉は雲雀と会ってから初めて笑顔を浮かべた。


綱吉が戦闘要員となったことで、戦闘は比較的楽になり道の進みも早くなった。戦争の無い街でぬくぬくと育った綱吉にはわからないことだらけで、慣れないことばかりだが、前世について雲雀と話し合えるのは楽しかった。前世では恋人同士とあって気恥ずかしいこともあるかと思えば雲雀はそうしたことをまったく気にしないので、綱吉ばかりが気にするのも馬鹿らしくなってしまい、そう気にすることもないんだな、と綱吉も思い直した。前世の話をしているうちに、細部がわからなかったところも話すことでお互い新たに思い出すこともあった。けれども創生力についてはあまり思い出せず、大した収穫はなかった。
そのうちに、綱吉は野宿にも慣れ、料理も少し覚えた。地図を見るのにも慣れ、気づけば地図の上ではナーオスはもはや目と鼻の先のところまできていた。丘の向こうによくよく目を凝らせば、確かにちらちらと高い建物の屋根が見える。きっとあれはナーオスの街の象徴の教会なのだろう。
ああ、これで久しぶりに柔らかいベッドで眠ることが出来る、そう綱吉が顔を綻ばせて口数の少ない雲雀とぽつりぽつりと会話をしていたら、突然数人の男に囲まれた。

アルカ教団の信者ではない、国の軍服を着ているわけでもない。灰色の妙な服をまとっており、耳が奇妙にとがっている。
こいつら、人間だろうか。年齢不詳、表情もわかりづらい。いかにも怪しい男達だ。
「雲雀恭弥に沢田綱吉、だな」
「だったら何」
とがった雲雀の声にも、ちゃきりと構えられたトンファーにもひるむ様子はない。
自分たちの顔と名前を知っている。アルカ教団か、国のヤツらか。明らかに友好的ではない態度に、綱吉も拳に力をこめた。
「異能者捕縛適応法で、お前達を捕縛する」
その声が合図とばかりに、綱吉は拳に炎を灯そうとした。が、一向に炎は灯らず、逆に力は抜けた。え、と思う間もなく首元に突きつけられた剣にごくりと生唾を飲み込んだ。
何故だ、何故天術が使えないのだろう。雲雀も天術が使えないようで、トンファーには炎が灯る様子はない。雲雀が不機嫌そうに眉を寄せるのを見て、男たちが嘲笑を浮かべた。
「天術が使えなくては不思議か?天術を封じることなど、我らにはたやすい」
無言で雲雀が睨むと、灰色の集団の一人がふん、と鼻で笑った。
「我らはグリゴリ族。天から降りてきた神の末裔。天術を封じる術を心得ている」
「大人しく捕縛されろ」
雲雀は天術が無くても十分に強い。目の前の敵くらいならば多少力が抜けていたとしても、彼の意地を持ってすれば倒せるだろう。しかし、雲雀はそれをしなかった。
鋭い剣の切っ先が綱吉の喉に赤い線を描いたのを目に入れたからだ。
正直、さっさと見捨てられると思っていた。創生力の記憶なんてジョットが前世の綱吉でなくとも、イナンナが前世の雲雀だっていつかは思い出すかもしれないものだ。他に転生者を探すという手もある。そもそもナーオスに向かっていたのはそのためだ。戦闘では今でこそ足手まといにはなっていないが、雲雀にとってそう重宝すべき戦力でもない。
ここでもういらない、と言われても仕方がないと覚悟していたのに、雲雀はトンファーを静かにおさめた。感情を隠すのが下手な綱吉はどうして、と顔に出ていたのだろう。
「君には、ホットドッグの借りがあるからね」
そういって不遜に浮かべられた笑みに、綱吉はうっかり涙が出るほど感動した。

感動したはいいものの、異能者捕縛適応法によってナーオス目前にして捕らえられてしまった二人はグリゴリいわく「転生者研究所」というところに送られることになった。窓が少ない、薄暗い研究所。連行されていく際にも綱吉の足は震え、手も震え、雲雀にため息をつかれた。
「研究所なんて…。これから、俺たち何をされるんでしょう」
「そうだね…君にとって悪い想像ばかり思い浮かぶけど、それでも聞きたい?」
こんな時にまで綱吉を弄ることをやめないらしい雲雀は、にやりと口端をあげてみせた。
「い、いいです、やっぱいいです聞きたくないです」
「そうだねまず天術の能力を知るために人体実験なんかは基本だと、」
「聞きたくないですってばーーーー!」
嬉々として喋り始めようとした雲雀を大声で遮った。ついに綱吉の目からは涙がこぼれ、うるさいよ、と雲雀に足を蹴飛ばされる。またそれが向こう脛に当たったものだから痛い。綱吉が泣き喚くと、グリゴリの一人が、緊張感のないやつらだな、とため息をこぼす。自分たちのことながら、それには綱吉も大いに同感だけれども、その原因はほとんど雲雀にあることは忘れないで貰いたい。
暗い研究所を奥に向かってしばらく歩き、着いたのは何の素っ気もないただの鉄の扉の前。呼ばれるまでここにいろ、と研究所内の一室に二人まとめて放り込まれ、がちゃんと鉄の扉を閉められた。こんなところから、どうやったら逃げられるというのだろう。さっきからこぼれっぱなしの涙がまた大げさに綱吉の目からこぼれた。

―…こうしてようやく話は、冒頭へと戻る。

 

 

 

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